九州大学大学院医学研究院泌尿器科学分野

教授挨拶

教授挨拶

江藤教授

九州大学泌尿器科教室を主宰しております江藤正俊です。当教室における診療、研究、教育についてご紹介いたします。

診療面では、腎・副腎・尿路と男性生殖器の悪性腫瘍を診断治療の柱とし、癌種やその病態に応じて手術療法・化学療法・放射線療法・免疫療法などの治療法を組み合わせて、患者様のQOLを重視しながら集学的な最新最善の治療を心がけています。さらに低侵襲治療として腹腔鏡下手術(腎摘出術・副腎摘出術・腎尿管全摘術・後腹膜リンパ節郭清術等)やロボット支援手術(前立腺全摘術・腎部分切除術・膀胱全摘除術・腎盂形成術等)を積極的に導入しております。

特徴的な治療としては、前立腺癌に対しては年齢・性機能・病理結果・病期などを考慮して、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術(性機能温存・非温存)を必要に応じて拡大リンパ節郭清を合わせて行っています。手術以外では強度変調放射線治療・密封小線源封入療法(以上の2つは放射線科と連携)・ホルモン療法・抗がん剤治療などがありますが、患者様の希望を取り入れながら、きめ細やかな治療を心がけております。特に、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術については、2012年より健康保険適応となりましたが、当科ではいち早く導入して拡大視野による精密な血管処理や確実な神経血管束温存処理により、術後勃起機能および尿禁制率の向上が認められております。また最近ではロボット手術の技術の向上に伴い、放射線治療後の局所再発例に対してロボット支援救済前立腺全摘術にも積極的にチャレンジしております。一方、術後のPSA再発例に対しては、根治を目指すための救済放射線治療も放射線科協力のもと行っております。

早期腎癌に対しては、cancer controlの点でも全摘術と変わらない腎部分切除術を第一選択として積極的に行っております。特にロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術は2016年4月より健康保険適応となりましたが、これについてもいち早く導入して低侵襲化とともに温阻血時間の短縮に努め、術後良好な腎機能温存が可能となっています。また九州大学病院先端医工学診療部と九州大学先端医療オープンイノベーションセンターと共同で、腎血管の走行や腎癌の切除ライン等を迅速に確認することを可能にするために術中自動追従型ナビゲーションシステムを開発中であり、温阻血時間の更なる短縮と正常腎実質の更なる温存に貢献していることが明らかとなっております。一方、進行腎癌に対しては分子標的薬やPD1経路阻害薬に代表される免疫チェックポイント阻害薬を駆使して治療を行っており、新規免疫チェックポイント阻害薬を用いた臨床治験や免疫チェックポイント阻害薬をどれくらい継続投与する必要があるかを明らかにする医師主導臨床試験も進行中であります。

筋層非浸潤膀胱癌に対しては、診断精度を高めるための最新技術としてNarrow band imaging (NBI)やPhotodynamic diagnosis (PDD)を積極的に導入してまいりました。また、TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)後に再発進展リスクの評価を行い、積極的にre-TURや術後再発予防を目的とした抗がん剤やBCGの膀胱内注入療法を行っております。また最近では膀胱鏡検査にartificial intelligence(AI)の技術を導入することで膀胱癌の診断精度の向上につなげる試みを行っております。一方、浸潤性膀胱癌に対しては、膀胱全摘除術を施行致しますが、これについても2018年4月よりロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術が保険収載され、当科でも積極的に導入した結果、従来と比して大幅に低侵襲な治療が可能となっております。また尿路変向の方法としては適応を考慮した上で、自然排尿型の新膀胱増設を積極的に取り入れております。一方、進行膀胱癌に対してはシスプラチンをベースにした化学療法や免疫チェックポイント阻害薬を用いた全身療法を行っております。膀胱癌においても新規免疫チェックポイント阻害薬を用いた臨床治験が進行中です。

腎盂尿管癌に対しても標準治療として、後腹膜腔鏡下腎尿管全摘術を行っており、鏡視下手術用のポート以外、腎摘出時必要な7cm程の切開のみで治療可能となっています。また腎温存を目的とした低侵襲治療として腎盂尿管癌に対する経尿道的尿管鏡下レーザー焼灼術を患者様の適応を考慮した上で実施しております。

次に研究面では、 ”from bench to bedside” だ け で な く 、 ”from bedside to science” と い う 視 点 も 大 切 に して、臨床での疑問点を基礎研究によって解明するアプローチで研究を進め、その成果を新規治療法開発へと橋渡しすべく、常に臨床に貢献できる研究を心がけております。基礎研究では、近年多くの癌の治療で分子標的薬は注目されていますが、その限界も明らかになりつつありますので、免疫チェックポイント阻害薬も含めた癌の集学的治療モデルの構築とその応用を考えています。臨床研究では本邦初のエビデンスを出すために多くの多施設共同研究を施行しているほか、ヒトの臨床検体を用いて癌局所の微小環境における免疫細胞の動態を明らかにする研究を行っております。また尿や血液を用いてがんの早期発見や予後の判定等に繋がる所謂バイオマーカーに関連する研究も積極的に行っております。

最後に教育面ですが、臨床は,”知識”とその”応用”からなります。”知識”の習得は講義によ ってなされますが、”応用”能力の獲得には、自主的な体験的学習や議論によって、問題解決能力の向上を図ることが何よりも重要と考えております。そのため、学部教育においては、ポリクリ、クリニカルクラークシップ等の臨床実習には特に力を入れております。大学院教育では、臨床医であっても、たえず疑問点を研究によって解決しようとする研究心旺盛な医師の育成が重要だと考えます。そのために基礎医学教室への大学院生の派遣やコラボレーションを積極的に進めております。また医療のグローバル化が著しい現在、大学院生には、きちんとした英語論文を書く力を身につけさせることも重要だと考えております。その延長として、留学も積極的に勧めております。昨今、日本の若者は内向き志向が強いとか言われておりますが、留学の2,3年というものは人生において得難い経験のできる期間と思われますので、最優先の人事として進めております。

以上、当教室における診療、研究、教育についてご紹介いたしましたが、ご質問等がある方は遠慮なく、当教室の方までご連絡ください。喜んでお答え致します。